オタク自省録

オタクのオタクによるオタクのためのブログ

語彙を信じよ

面白い文章を書きたい。それが腐れ大学生たる筆者の唯一の建設的意向である。筆者がどれほど自堕落な生活を送っているのか語り始めると四半世紀はかかる(なお筆者は四半世紀も生きていない)が、退廃的な日々の中でなんとか奇天烈な文章を生み出したいと常々思っているのである。しかし文書が書けない。書こうとしても満足のいくものが得られない。といった期間が数か月あり、昨年の十月あたりのブログ更新がゼロだったりした。これがなぜなのか、筆者には皆目見当がつかなかった。

時は流れ筆者も就活の流れに巻き込まれた。やれ自己分析だ、やれ企業研究だと日本人らしく周囲に付和雷同することで精神的安息を得たはいいものの、体面を取り繕うばかりで実が伴わず、企業から送られてくる芳しくない結果にただただ意気消沈していた。筆者の自主性のなさがピークだった時のエピソードとしては、テストセンターにSPIを受けに行き、テスト開始五分後にそこはかとないうんこの波動を掴み、堂々の途中退室を決め込んだことがあった。便座との融合を求める生理現象を前に筆者の軟弱な自制心は打つ手がなく、出鱈目にマークした解答を試験管に投げつけ、逃げるように煙に巻いた。

 

このままでは本当に社会の藻屑となってしまう。手の施しようがなくなる前になんとかして世の企業を欺き、さも有能なふりをして内定まで行きつかねば。数々の蹉跌を経てようやく筆者は乾坤一擲いきり立った。まずはSPIテストの対策から始めようということで、本屋で適当な問題集を購入し、演習にとりかかる。大学入試以来まともに勉強と向き合ってこなかった筆者には少々堪えるものがあったが、推論などは高校数学の応用で解けたりするため、左程苦労しなかった。むしろ成績が振るわず刻苦したのは日本語の問題であった。

SPI試験には語彙力問題がある。反駁、泰斗、訥弁などの意味を瞬時に判断し解答しなければならない。筆者は読書が好きであり、作文も嗜む。向かうところ敵なしと手前勝手に景気付いていた語彙問題で、図らずも苦渋を飲むこととなった。幇間、胸算用、なんだそれは。聞いたことはあるが全く用法がわからんぞ。一人部屋でぐずぐずと文句をたれながら進出単語をメモするその作業は、はたして中学校依頼していなかったような気もする。誰にもわからぬよう心の奥底に隠しこんでいた国語力に対する矜持は、手元から滑り落ちたショートグラスのように音を立てて砕け散った。

 

わかってはいたけど、まだまだ勉強が足りないなあと、単語の意味を書き並べたノートを眺め自分の傷を嘗めていると、不思議なことに新たな文章につながる光明のようなものが薄っすらと見えた。「おや」と怪しがって寄ってみると、確かにそれは文章らしきものを構成する破片であった。

それらを拾い集めて並び変えたり変形させたりとわちゃわちゃしてみると、驚くことに文章が完成した。何を隠そう昨日の記事である。その完成度は主観的に非常に高く、スランプ期の不満だらけの文章と比べると雲泥の差である。一気呵成に書き上げた記事を舐め回すように読み返し、「これはもしかするかもしれんな」とひとりでに笑みを浮かべる筆者。彼の脳内ではすでに『語彙力=文章力』の方程式が確立され、その公理を元として数多の不完全定理が広がり始めていた。肥大する妄想の中で「語彙を増やせ!」「言葉を信じよ!」学生運動のような熱狂に埋もれる筆者。当面は記事に困らないようである。