週刊文盲 オタク自省録

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俺氏、本屋経営者としていきり立つ

「決めた。俺は本屋を経営する」

思い立ったが吉日、俺は経営者としていきり立った。これに先日読み終えた本屋さんのダイアナが影響していることは言うまでもない。ただ、主人公の大穴(ダイアナ)が本が好きだから本屋を経営しようとしていたのに対し、俺の経営理念は実に邪悪な陰陽道にあることだけは伝えておかねばならない。

 

ブックオフでも経営すんのかお前は」

バイト先のチャラ男にそう告げられた俺は此処ぞとばかりに言ってやった。

 

「俺はドチャクソお洒落な本屋を女子校の門前に建立する。そして帰路に立ち寄る女子高生と懇ろになるんだ」

女子高生を飼いたい。それが成人を果たした俺の夢だ。

 

「確かにお前の志は立派なもんだけど、経営者ってそんなに甘いもんじゃないっしょ」

チャラ男はビール樽に寄りかかって、俺をたしなめるように続ける。

「というかお前さ、突拍子も無いこと言う前に資格でも取れば?」

 

かく言うチャラ男は飲み会コンパの日々に明け暮れつつ、束の間の時間を利用して着々と資格収拾に励んでいる。正常な思考回路をもってすれば、俺とチャラ男とどちらが人間的社会的精神的に優れているかは一目瞭然だろう。

 

実学などなんの役に立つもんか。就活だのなんだのって、そんなものばかり見据えていては実りある日々にならんじゃないか」

文化的な生活を営みたいってわけ?」

憲法25条は健康で文化的な最低限度の生活を保障したものじゃない。むしろこれは義務だ。先進国に生まれた俺たちが文化的でなくして誰が文化的であれるもんか!」

 

頑なに文化的というワードを強調する俺に辟易したのか、チャラ男は営業中だというのにレモンサワーを飲み始めた。

「本が好きなのはわかったから。てかお前そんな本好きだっけか?

最近好きになった。から本屋経営に乗り出す」

それ幼稚園児がケーキ屋さんになりたいって言ってんのと同じレベルだぞ?」

 

俺の知能レベルは女児のそれで一向に構わん。それどころか、ミューズたる女子高生に性別だけでも近づけるなら女児の心になりたい。

「経営者やろうと思ったら、まず経済学を学ばなきゃ。それに、本屋なら売れそうな本の知識ね。どんな作家の本が人気かとか、話題の本だとか、知ってんの?」

もちろん俺だって無謀にも経営者になろうなどと思ったわけではないよ。経済学はこれから調べ上げる。今は滅んだマルクス主義しか知らん。あと本に関する造詣はアレだ。そのうちつくだろ

 

これは決して弁明の放棄などではない。重要なのは熱意だ。俺の女子高生に対する想いが本屋という形で結実するのは時間の問題だろう。だがその前にこのチャラ男の言う通り、諸処の事情を検討して見る必要はある。

「そもそもお前みたいな奴が店主だと女子高生来ねえだろ」

そう言うチャラ男の目はどこまでも冷笑的であった。

 

考慮すべき事項は山積している。まずは問屋との契約が必要だろう。莫大な書物を一括注文することで手数料を軽減し、我が書店の利益を最大化する必要がある。そのために極力有利な契約を問屋と契らなければならない。私的自治蔓延る資本主義経済大国日本において、民法をまともに修了していない俺は経済的弱者に他ならず、問屋との対等な契約を結ぶことはおろか、現状では消費者契約法の庇護下になければ生存すらできないみっともない有様である。本屋経営の登竜門は民法習熟にあり。俺は二年前に購入した民法総則の教科書を手に取り、そのまま枕にして眠りについた。

目を覚ました俺は更なる業務推定を行う。先程の睡眠は学問に下ったためではなく、想像力豊に業務推定を行うために英気を養ったまでである。つまり、計画的経営不振のようなものだ。俺は早くも経営者として頭角を現しているのだ。

 

最近の本屋の流行はやはり「ブックカフェ」だろう。本を買うだけでなく、ちょっとしたアフタヌーンティを嗜みつつ読書ができる、そんな素敵空間デフレスパイラル真っ只中の世の中に求められているのだ。俺は女子高生が学校帰りに我がブックカフェに足を運ぶ様を夢想する。読書好きな文学少女もいるだろう。俺とのおしゃべり目的でやってくるおませさんも居るだろう。時には店員として、時には親代わりとして、俺は女子高生たちの心の支えになるのだ。

しかしブックカフェとなるとそれ相応の面積を有するテナントあるいは土地を具備しなければならない。不動産が絡むということはやはり賃貸借契約あるいは宅建業法の独壇場だろう。宅地建物取引士の資格勉強などしたことがないので、仕方なく賃貸借契約について多少は言及のある民法総則の教科書を手に取る。涎がついていて汚らしいが、寝る間も惜しんで勉学を重ねた過去の俺の姿が見えるようで我ながら誇らしい。つい先程まで汚れがなかったことを記憶障害のごとく忘れ去り俺は勝手に有頂天となった。そして計画的経営不振を起こす。

 

それからというもの、業務推定をすればするほど法律の影がチラホラと現れる。俺が追い求めていたのは女子高生とのバラ色人生であって、実学至上主義の権化たる法律学などでは断じてない。しかし、夢を実現するためには憎き法律との対峙は避けて通れぬこともまた事実。今俺は冷戦時の大統領より苦渋の決断に迫られている。

永きに渡る自己問答の結果、俺は本屋の経営者に踏み込むことを敢えて避ける英断を下こととした。女子高生との関わりは本屋経営に非ず。例えば女子校講師やカッフェ経営など、より制限的でない他の選びうる手段は山ほどある。希望に満ち溢れた俺の将来には無数の選択肢が跋扈しているのだから。

「わかってくれたならさ、とりあえず行政書士でもとったら?」

今夜はチャラ男とともに飲み明かそうと俺は思った。