週刊文盲 オタク自省録

オタクのオタクによるオタクのためのブログ

オタクのゲイバー惨敗記

はじめに言っておく。俺はあの一晩のことを思い出したくない。朦朧とした意識を辿って何があったのかを考えてみると「やってもうた……」と感じざるを得ない。でも記事にしたらそこそこ面白いんじゃなかろうかとも思うし、何より読者諸賢の知的好奇心の的になるのではと思い、この度記事を書くのです。

 

4月の頭。大学生は新入生歓迎モードに入る。校門から緊張した顔つきで流れ来る一年生は、大学に関する説明を受けるより先に、声掛け、ビラ配り、ライン交換の洗礼を受ける。在校生は新歓期というお祭り騒ぎに乗じて、普段ならナンパ紛いでしかない執拗なサークル勧誘を行う。我がサークルもそれは同様に確からしく「可愛い子と面白い子とイケメンだけ勧誘しよう」というマスタープランのもと、俺は大学に駆り出された。

新入生歓迎たこ焼きパーティを後輩の家で決行し、可愛らしい未成年と戯れた後、俺はゲイバーへ向かった。例のゲイが腰を据えているHUBである。前回なんとなくゲイバーにお邪魔した際に酩酊状態にあった俺は、体験入店だけやってみる等と宣っていたらしく、その日程が今日らしい。とはいえ、俺はそれなりに気分を浮き立てていた。俺はゲイではないがゲイにモテるので、チップやバックでバッコリ儲けることができるのではないかとの早計な目論見である。夜食のおにぎりと酔い止めの飲むヨーグルトをかきこんで、エレベーターに乗り込んだ。

 

カランコロン

「いらっしゃーい。あぁ、アンタね、こっち入んなさい」

以前見たショットバースタイルのカウンターだったが、今回はいきなり満席である。水商売をしているであろう女性、よくわからないおっさん、貫禄のあるデブ、と、客層はまばら。「こんばんは〜」と、とりあえず挨拶だけして別室に移動する俺を好奇の眼差しが集中した。店長のゲイがいかにもといった感じの小汚い風貌なのに対し、俺はそこら辺に居るウェイ系大学生なので、客の目を引くのも然りといったところか。

適当に準備してカウンターの内側へ移る。ショットバーのカウンターに入ったことがなかったので、カウンターから見える光景に多少の感動を覚えたりした。どうやら客の一人が本日バースデーらしく、バースデーケーキやらフルーツタワーやらがテーブルに転がっている。「お兄さん私今日誕生日なんだ〜」猫目の女性がそういってお酒を勧めてくる。「じゃあ乾杯させてもらってもいい?」俺はボトルキープされた鏡月の水割りを貰い受け、歓談などをした。

 

ゲイバーと言っても、やはりこういった場所はキャバクラやガールズバー等とやっていることは同じである。客に酒をねだり、飲んで飲ませてバックで稼ぐ。俺は『スタッフ』というより『キャスト』だった。今日が初入店ということで、お客も俺にお酒を飲ませてくれるし、何より優しさがある。こんな青二才と喋っていて何が楽しいのか俺にはわからんが、若さが何よりの武器、ということなのだろうか。俺も次第に図に乗り出して、「魔王飲みたくなってきたかも」等と、一杯数千円する焼酎を要求し始めた。躊躇いなく申請を許諾してくれるこの客もこの客。親馬鹿子馬鹿の構図である。

店長のゲイは俺とすれ違う度に「ねえエッチしない?」と耳元で囁きながら俺の股間やら胸部やらを撫で回してくるが、仕事を丁寧に教えてくれるし、言うこと全てが本気なのか冗談なのかわからない節があるので、適当に流した。ただ、何故かこのゲイがSHISHAMO好きということが判明したので『明日へ』を二人で熱唱した。「いえーい!」とハイタッチして酒を飲みつつ、カウンター越しのお客と雑談。ホンマにこんなんで金貰ってええんかと、むしろ心配になってきた。

 

客は一時間二時間で回転する。ヤク中のおばさんにゴミオタク大学の悪口を言われたりよくわからない人生論を説かれたりもしたし、キャバクラオーナーのゴツい兄ちゃんに気に入られ、シャンパンを賞味させていただいたりもした。ただ、客はほろ酔いで店を出るのに対し、俺はどこまで酔いが回ったとしても夜が明けるまではこのカウンターから出る訳にはいかない。相当な量のお酒を奢ってもらったツケが回ってきた。俺のアルコール分解酵素が雪崩れ込むエチルアルコールに追いつかない。段々と目がとろんとしてきて、足取りが不確かで、強烈な不快感がやってきた。

こうなってしまうと俺はポンコツである。ボトルは割るわ酒は零すわトイレにゲロを放置するわ、見るに堪えない大失態を繰り返しヘラヘラと笑っていたと記憶している。ゲイの店長は俺を怒鳴り散らしたりはせず、やはり「ホテルいく?」と性交渉の誘いばかり囁く。彼なりの優しさだったように思う。

ついにはめちゃくちゃ可愛いキャバ嬢二人に「大丈夫?」と再三に渡って心配され、むしろこっちの方にお持ち帰りされそうになった。それはそれで本望だったが、目が覚めた時に自宅の天井が見えたので彼女らとのご縁はなかったということだろう。いやそういう話ではない。

 

それから一時間、何もできず、虚ろな目で強烈な吐き気と戦う時間が続いた。「帰っていいわよ」という店長の一言で俺は逃げるようにその場を離れた。体験入店なので俺にバックは入らないが、入っていたら3万ほど貰えていたらしい。しかし、そんなことより忸怩たる思いで頭がいっぱいだった。客に心配され、ゲイに尻拭いをしてもらい、本人は這々の体で逃げ出す始末。これ以上の屈辱があっただろうか。

俺は自分の不甲斐なさに涙を堪えつつ家に帰り、一人泣いた。酒に飲まれる下戸に夜職は不可能ということが、今ここに改めて立証された。