週刊文盲 オタク自省録

オタクのオタクによるオタクのためのブログ

オタクのライブ入門

俺は若者に人気のアーチストなどに無頓着だ。ワンオクだのバックナンバーだの、なんとなく有名な曲のサビくらいは把握しているものの、その詳細は未踏の地である。そんな俺に、若者に人気のアーチストにライブに行く好機が訪れた。女の子三人組のバンドSHISHAMOである。女子高生の心情を巧みに歌ってのけるこのバンドに、見た目はオタク中身はJKの俺は一瞬で首ったけになり「武道館ライブとはSHISHAMOも大きくなったなぁ」などと、もとからお前の近くにいたわけでもないバンドのことを親気分で思ったりした。SHISHAMOの武道館ライブがこの度で二度目ということを知るのはもう少しあとの話になる。

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今回のライブは俺にとって初のライブとなる。以前に気の迷いなのか魔が差したのか知らんが、声優メインのアニメライブに参列したことがあったような気もするが、参列しなかったような気もするので、誰がなんと言おうと今回が初ライブ。俺のライブ童貞をSHISHAMOに捧げたい。

知らない人のために一応説明を加えておく。SHISHAMOというバンドの魅力は情動を誘う楽曲群と豊富なカルシウムにある。かつて「イワシだっけこのバンド?」と記憶違いをしていた認知症患者は女子高生の心を語るSHISHAMOの歌声で記憶を呼び覚まし、「ボーカルが深海魚みたいな顔してるからししゃも」と空理空論を並べていた異端学者はSHISHAMOの誇る瞠目すべきカルシウムで心を落ち着かせたという。

 

何はともあれ、俺はバンドマンの夢の舞台と名高い日本武道館に馳せ参じた。ライブという戦いは物販から始まる。険しい市場競争をくぐり抜けた選りすぐりのグッズを目前に、俺たちファンは生活費圧迫の現実的危険性をわきまえることなく、肉切骨断の思いでライブの特産品を獲得するのだ。かくいう俺も4月1日現在、4月分の家賃滞納により支払利子が早速加算されている。しかし、俺は一向に構わん。

かくして俺はバンドTシャツとタオルで武装を完了し、その他もろもろの小道具で心を潤沢なものにした。

 

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SHISHAMO父親気取りの俺は、明らかに俺よりSHISHAMOに精通しているであろう周囲のファン達に臆することなく会場に突撃した。予約しておいた座席は二階の南。会場全体を一望できる特等席だと思う。嵐の前の静けさと言うには些か賑やかすぎる武道館の雰囲気を大きく吸い込み、仙人呼吸法でエネルギーを得ようと目論む。というのも、会場の大半は女性であり、なおかつ女子中学生や女子高生も相当数おわしますのである。女子高生になりたいと四六時中喚き続け、バイト先の女子高生に軽蔑の眼差しを向けられる様になった俺は、現役女子高生と同じ空気を吸うことで女子高生への転生を図ろうとしたのだった。机上にすら上がらない思いつきの空論はライブについてきた友人の「うわキモ」の一言で当然に霧散した。

 

いざライブが始まると、時間は光陰のごとく過ぎ去っていった。前述の通り、俺は確かにライブ童貞だったのだけど、音楽に合わせて腕を振ったり手を叩いたりと感情の赴くままに好き放題するだけの太鼓の達人より簡単なライブの楽しみ方に心底救われ、館内に響き渡る爆音を体全体に浴びつつ登楼した。幕間にメンバーの名前を叫ぶのもまた良し。

「『中庭の少女たち』と『音楽室は秘密基地』をやってくれたら物販で暴れ狂ってやる」と俺は豪語していたのだけど、前半の前半で両方の楽曲が演奏されてしまった。俺は滝のように涙を流し財布の紐を千切り捨てる覚悟を固めた。Soa家大蔵省は度重なる緊縮財政に喘ぐことになるだろうけど、俺は一向に構わん。

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 ※『音楽室は秘密基地』はYoutubeにあがってませんでした。

 

武道館の中は異世界と化していたように思う。SHISHAMOが中心となり会場全体の熱気を集中させ、音楽という空気振動に乗せてエネルギーを何倍にも増幅させて会場全体に送り返す。室温とともに加熱されていく会場のボルテージ。『エモい』なんて言葉は断じて使わんと志を凝り固めていた俺もこれには耐えかねた。

「エモい」

発電所の如くエネルギーを生み出し続けるライブ会場の発電効率が最大となったのがSHISHAMOファンならおなじみの『タオル』という曲だ。イントロわずか1秒で会場の総員が肩にかけたタオルを手に取りだす。「『せーの』の合図でタオルを振って下さい!」と説明するベースの松岡彩氏だったが、もはやその説明も練習も不要に思われる程周到な準備だった。

 

みなさん 右手にタオル用意

せーのっ

 

グルグルグルグルグルグルグルグル

一万を超えるタオルが一斉に回転を始める。もはやこれは『タオル現象』と言ってもいい。ファンたちの右手が武道館に大旋風を巻き起こす。台風を遥かに下回る極低気圧が発生し、俺達の悩みや不安なんていう感情をまとめて木っ端微塵に吹き飛ばしてしまう。『タオル現象』は学会に発表すべきだし、厚生労働省は『タオル現象』を利用して日本の労働環境を改善してほしい。

タオルという負荷を右腕にかけ続けた4分間で、俺は多大なる乳酸を生成することに成功した。しかも最後の伴奏が長い長い。ファンサービスということで、ギターベースの二人が会場の左右を往復してSHISHAMO親衛隊に媚びだした。「前の方の席取れた人が羨ましいなあ」なんて思いつつ、俺は蓄積された乳酸を利用しヨーグルトを作った。『タオル現象』の副産物としてヨーグルトが出来上がることも判明した。

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そしてついにライブは終了。二度のアンコールを経て、SHISHAMOはステージから姿を消した。ボーカルの宮崎朝子氏は、CDで聞くよりこぶしが強くかかった歌い方を見せた。ライブへの思いを歌に乗せたのだろうか。また、顔を歪めて微妙繊細な声色を操る彼女の姿に畏怖さえ覚えた。

ボーカルはもちろんのこと、俺はドラムの吉川美冴貴氏に惚れ込んだ。激しい16ビートやドラムソロを力強く叩き込む彼女の横顔は戦乙女のそれだった。俺達が発電所の一部として稼働したり『タオル現象』の片棒を担いだりしているあいだ、彼女は常に目の前のドラムと、あるいは俺達と戦い続けていたということか。

ベースの松岡彩氏は可愛かった。

 

会場を後にし、九段下駅へ向かう道中、俺は茫然自失となり虚空を見つめ続けた。強い充足感とともに、心にぽっかり穴が空いてしまったような感覚もある。

「これがライブか」

全てにおいて圧倒され続けた3時間。メトロに乗ってもこの日のことを忘れはしないだろう。ありがとうSHISHAMO。ありがとう武道館。また会う日まで、お元気で。

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