週刊文盲 オタク自省録

オタクのオタクによるオタクのためのブログ

オタクのカクテル入門 1

ジントニックをお願いします」

バーに入ったら一杯目はジントニックと決めてある。これは俺の大先生に倣ったものであり、実際にジントニックがウェルカムドリンクとして優秀だからである。

ジン45mlとトニックウォーター105mlを軽くステアし、カットライムを添える。これがドチャクソ美味い。ゴミ大学生が居酒屋なんかで吐くために飲むエチルアルコールとは全く別物と言っていい。そもそも大学生なんぞが酒の味をわかるわけがないのだから、俺たち大学生に与える酒はすべてワンカップ酒で上等だ。いや、ワンカップ酒は世のおっさん達の救いの酒だ。それを大学生に奪われてはおっさんの労働効率が低下、伴って日本の産業競争力が停滞し、世界に遅れをとってしまう。日本のためにも、大学生には消毒液を泥水で割ったものを飲ませると良い。

「美味しいですねこのジントニック」なんてマスターと適当な会話をする。マスターは「ありがとうございます。ジンがお好きなんですか?」なんて返してくれるが、向こうからすれば赤毛のアンの男体化みたいなガキが何か言ってるようなものだろう。実に生意気だと自覚はしているが、かれこれ20年間生意気に生きてきたものだから貫き通さない訳にはいかない。ジントニックを一気に飲み干し、次の注文を始める。

 

「何かブルーキュラソーを使った面白いカクテルってありますかね?」

バースタッフにとってこの手の掴みどころのない注文が厄介なのか喜ばしいものなのかはわからないが、カクテルをよく知らない場合はこんな感じで注文するといいらしい。俺自身初めての試みだった。

「じゃあちょっと作ってみますね」

そうして出てきたのは『ブルースカイタワー』というこの店オリジナルのカクテルだった。何が入っているのかよくわからないが、とりあえずウォッカベースなことだけはわかる。カクテルの魅力はドリンクとしてだけでなく、一つの作品として楽しめるところにある。グラスの上に集約された美術品の美しさに恍惚としてしまう。私立文系ゴミ大学生という皮を被ってはいるがその実心は女子高生な俺は、女子高生らしくカクテルの写真をパシャパシャと撮り申し上げた。カクテル好きの女子高生がいたってええじゃないか。

 

うめえうめえと豪飲していると、バーの鐘がチリンと鳴った。入り口に華やかな女性が二人ほど。来客らしい。

なんとなく眺めていると、俺の友人が駆け寄ってきた。「あの女の人のとこいかね?」口説き落とそうという魂胆である。まあバーではよくあることというか、むしろ男性のマナーというか。しかしバーに来る女の9割はメンヘラだ。別に彼女らをホテルにまで連れ込もうなどと考えているわけではないが、めんどくさい会話が始まると萎える。

マスターに『マンハッタン』を作ってもらい、グラスを片手に二人の男が女性に近づく。話を聞くと彼女らは看護師らしい。今日はお休みで遊びに来ているとのこと。俺にはよくわからないが、地元の病院の悪口を散々言っていたため、医者の息子の医大生が「あいつらなんやねん」とあとでブチギレなどしていた。

看護現場の話をされても公務員の息子の俺にはさっぱりわからず、マンハッタンをちびちび飲みつつ、お姉さんの谷間を眺めていた。おっぱいを選定する国家資格を持つ俺の審美眼に狂いがなければ、多分Eカップくらいだったと思う。ウイスキー45ml、ベルモット15ml、アンゴスチュラビターズ1dashから成るマンハッタンのカクテルの女王たる由来を語る前に飲みきってしまった。うまいもんはしょうがない。

 

話と谷間に飽きた俺は再びカウンターに戻り、別の友人と話し込んでいた。

「あの女の人お前の元カノに似てね?」

確かに元カノに似てはいる。顔の形とか声の調子とか。そんなこんなで恋バナに花が咲き、俺の友人は俺の元カノを通じて俺と穴兄弟になっていたことなんかを暴露した。『穴があったら入りたい』とはよく言うが、男に真に必要なのは『穴があったら入り込む勇気』である。なんて説教を垂れながら、『バーボン』で乾杯した。

バーボンの味わいは正直俺にはまだよくわからないが、その魅力は重々感じている。ただ強いアルコールがロックスタイルで置かれているだけなのに、その堂々たる常住坐臥ぶりは、歴戦の老兵士を思わせる。俺もいずれ社会の荒波に揉まれて歳を重ねればバーボンの味わいが身にしみてわかるのだろうか、なんて思いつつ、元カノが友人に俺の遅漏を密告していたことに腹を立てた。

 

男たちの夜はまだ長い。