週刊文盲 オタク自省録

オタクのオタクによるオタクのためのブログ

オタクのゲイバー入門

来る春、来年度に向けて、俺は2つの抱負を宣言した。一つ、新歓で可愛い女の子を大量に我がサークルに招き入れること。二つ、ホモ受けする俺の特性を活かして一儲けすること。後者に関して、近場に『ミックスバー』なる半ゲイバーのような店があったため、そこでバイトをしてみようと目論んでいた。うまく行けばチップやバックで大儲けである。私立文系ゴミ大学生にとって必要なものは学問ではない。酒と女と、その両者を調達するための金である。

とはいえ、夜の仕事にいきなり飛び込むのはリスクが高すぎる。いくら俺が冒険家とはいえ、ケツの貞操の危機とあらばそう簡単に現実的危険性を無視することはできない。そこで俺は下見として、現在勤めている居酒屋バイトのあとに例のミックスバーへ潜入調査することとした。

 

時は12時をまわり、ちょうど日が変わった頃。俺はミックスバーへ立ち入った。

カランコロンという来客を知らせるベルが鳴り、奥から男性の声が聞こえた。「いらっしゃい〜」バーの内装は普通のカウンター様式。誰もいないカウンターに、安田大サーカスのクロちゃんみたいなマスターが立っていた。でっぷりとした腹、刈り上げた自衛隊カット、整っているようで普通に汚い口ひげなど、ゲイとしての様相を醸し出している。誰が見てもひと目で分かるゲイだった。

軽くシステム説明だけ受けてマティーニを注文。ウェルカムドリンクということでとりあえず一杯を飲み干したところで俺とマスターの会話が始まった。

「きみナベ?」

新規の客に対して第一声がこれである。ナベってなんだよ。聞いてみると、「女が性転換とかして男になった人」のことを指すらしい。そして当然のごとく男性愛者。やかましい俺はしみけんの弟と呼ばれた男だ。生まれも育ちも身も心も男に決まっている。そう告げるとマスターは「えっここただのゲイバーなんだけど」と、こちらを値踏みするような目で見てくる。ちょっと待て、ミックスバーとはなんだったのか。ゲイもニューハーフも男も女もなんでもありのバーじゃないのか。ゲイバーなのかここは。

 

「でも俺ノンケやけど、ここ来てよかったん?」

「大丈夫、ノンケも需要あるから」

どうやらゲイの中では、ノンケを犯したいという欲求及び需要があるらしい。いや、そういう話ではない。そういえばさっきからなんとなくマスターの目線が性的なものになってきた気がする。

「てかヤダ、きみ可愛い〜〜♡」

ほれみろこれだ。

「あっそう?俺ホモ受けめちゃんこええんよね〜」

とりあえずそう返しておく。それからというもの「付き合おう?」「一緒に住もう?」「ホテル行く?」「ねえ早く酔って〜」「ねえヤりたい〜」などに分類される言葉を再三再四に渡って聞いた。「俺はノンケや!!」と丁重にお断りするも、前述の通りノンケすらゲイにとっては性的対象となるようで、誘いをお断りする有効打となりえない。唯一救いだったのは、このゲイが徹底したウケ専だったことか。そうでなければ今頃俺の処女は奪われていたかもしれん。

 

とはいえ、基本的にゲイの話は面白い。以前俺はホモ上司に連れ去られ新宿2丁目のゲイバーに誘拐されたことがあったが、そのときも楽しいひとときだったと記憶している。IKKOやはるな愛のようなオカマはゲイの敵対勢力だということ、マツコはゲイ的にも交換が持てるゲイだが子持ちということ、このあたりのホストはレベルが低いということ、この店にはキャバ嬢なんかも来たりすることなどなど、様々な知られざる裏話的情報を聞くことができた。何事も飛び込んで見るものである。

しかしこのゲイ、やたらと俺に酒を勧めてくる。最初の一杯は無料ということでマティーニを飲んだが「金ないからあんま飲まねえよ?」と俺が言っても「サービスするから飲もうよ〜?」と新たなる酒を持ってくる。そう言われるとカクテル好きの俺としてはこの機に乗じて種々の酒を飲んでみたくなるもので、ブラッディメアリ、XYZ、ギムレットなんかを次々と注文した。

これだけならまだ良かったのだが、マスターゲイは勝手にショットを持ってくる。2杯のテキーラをショットで飲んだのは覚えているが、それから先に何を飲んだのかもう記憶がない。なんとなく歯磨き粉みたいな味の酒を飲んだような気もする。持ち帰った伝票を見ると8杯ほどショットで飲んだらしい。そりゃ記憶飛ぶわ。

 

「ちょっとトイレ行っていい?」

単純に小便をしたくなったのでトイレへ。今思えばなぜ俺は定期的に吐かなかったのだろうか。吐いていれば二日酔いに苦しめられることもなかったはず。酒の容量が少なかったからと油断したか。

「うふっ、かわいい〜〜♡」

お前何勝手に入ってきてんだ。「出て行け!ここは俺の領土だ!!」と、アレキサンドロス大王のようなセリフを吐いたが、ゲイは俺の生殖器を覗き込んでくる。「あら、勃ってないじゃない」当たり前だ。俺はノンケっつってんだろ。てかなんでお前は勃ってんだよ。パンツ履け。いつの間に脱いだ。

一旦ゲイを追い払い、軽くリバースをして席に戻ると、上裸となったマスターがクネクネとショットグラスを片手に見つめている。

「わかった、飲めばいいんやろ。わかったからギャランドゥ見せんでくれ汚い!」

手のひらの甲にグラスを乗せ一気に喉に流し込む。喉が焼ける。「それ50度のバーボン♡」じゃねえよ何飲ませてんだ早くライム持って来い。

 

結局俺は2時まで居座って散々酒を飲み散らかしていたらしいが、会計金額はたったの2000円。このゲイ俺に優しすぎじゃね?

上着を上下逆さまに着こなす程度には酔いつぶれていたので、マスターにお世話してもらいながらエレベーターまで向かう。途中でやたらと身体接触が多かった気がするが、こちとらそんなことを気にできるほど健康な状態ではなかったので妥協。明らかにチンコ揉まれてた気がするけど。

店を出て這々の体で家までたどり着く。もう限界だ。酒に飲まれてしまった。軽く水を胃に流し込んでは吐きといったリバースサイクルを数回行ったが、流石に二時間飲み続けた酒はもう出てこない。諦めて布団が待っているロフトへ向かおうと階段を上るが、体に力が入らず当然のごとくずり落ちて、その落下音で階下の住人を幾度も叫ばせたことは記憶している。ただ、俺の嗚咽に対して叫んでくるのはやめてくれ。ゴミ大学生にだってアルコールを吐く権利くらい保障されている。憲法25条生存権、健康で文化的な最低限度の生活である。

 

そうして一晩断続的な睡眠と悪寒に苛まれた俺は、『酒は飲んでも飲まれるな』というホストの教訓の偉大さを再び学んだのであった。ゲイバーは楽しい。ただ、ゲイ受けする方は酒に注意するべきだと思う。現場からは以上です。