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オタク自省録

与えられたお題に答えたり、オタクのために率先して新境地を開拓した結果を報告したりするブログ。

最高に意識高いインターンに参加したら三日でドロップアウトした話

しょうもない近状

この時期になると、俺御用達の中央線通勤快速や中央線特別快速に似合わないスーツと排泄物色をした髪をようやく日本古来の伝統的色彩にもどした新規労働力の卵をよく見かける。彼らが今から『全日本「オンシャァ・ヘイシャァ」発声会』に参加する精鋭たちであることは言うまでもない。学生というのはその九割は「社会のために役立とう」などという高尚な意識を持たず、飯と酒と女があればそれでいいと考えているものだ。その極まりに極まった堕落意識が、『若者の無気力化』などと分析・解説されているのは実に滑稽であると最近思う。

 

そんな就活生を扱き下ろしまくっているお前の方は何をしているのかという話だが、来年に迫る『全日本「オンシャァ・ヘイシャァ」発声会』に備えてインターンなどに参加している。俺が慕う恩師が「あそこのインターンは為になる」などと俺を唆したせいで「○大生が最も入社を希望する企業」なんて売り出し方でインターン生を集っている某企業に潜入する羽目になった。その企業のインターンは2回の筆記試験で10分の1ほどに参加者を絞っているらしい。俺は何かの間違いで二度とも試験に受かってしまったので、同じ椅子に30分以上座ることができないADHDを隠すことに全力を注ぎ、インターンに臨んだ。

 

初日はまだ楽しかったと記憶している。企業説明は程々に、これから一ヶ月間に渡るインターンの内容説明と、業務のデモンストレーションを受けた。この企業はインターン生の個人能力を高めることに主眼を置いており、「問題解決能力」だとか「新規創造力」だとかっていう意識高い系が好んで使いたがりそうなワードで俺たちの意識を高めてきた。言うまでもないが、世間を達観し、至り尽くした冷笑主義の呪縛を受け続けている俺の意識は未だ高まることを知らない。何時ぞやの任天堂株の如き落下具合を得意げに見せ続ける俺の意識はどこまでも下っていき、マリアナ海溝の奥底に沈み込んている。そしてその意識はもはやサルベージ不能といえるだろう。

なんていうことを、一日の最後に書く日報に書き連ねたことを記憶している。インターンの業務中はとにかく頭を使うし、何より同じ椅子に座り続けるので苦痛以外のなにものでもない。俺のような社会不適合者が来るべき場所ではなかったとつくづく思った。しかし、意識が大気圏を突破している企業とはいえど、流石大成功を収めている企業のインターンというべきだろうか。俺のように地殻付近に意識を置き去りにした人間でさえ「これを続ければ確実に個人としての能力が上がる」と錯覚するようになったのだ。素晴らしいかなオンシャァ。

 

二日目は業務上必要なプログラミングの知識を叩き込まれた。といっても、ほぼ放置型の叩き込まれ方である。俺はプログラミングに足先を突っ込んだ程度の知識しかないのでプログラミングすると聞いてビビリにビビっていた。卵に毛の生えたような知識で太刀打ちできるものだといいが、などと思っていたが、今回使う言語は見たことも聞いたこともない開発言語だった。エンジニアの友人を訪ねても「聞いたことが無い」とのこと。そんな得体の知れない言語に携わってもう8年になるという社員の方が使い方を教授してくれた。彼の八年間に渡る謎の言語との付き合いは、密林の秘境で解脱への道を模索し悟りを開かんとするチベット仏教を彷彿とさせる。流行りの実用言語を忘れ去っては未開人になりかねないのではないだろうか。

「以上が基本の使い方になります。それでは前の画面に表示したような計算機を作ってみてください」

未開人がそうとだけ言うと、突然放置型のプログラミング学習が始まった。しかしよく考えてほしい。講座開始からここまでわずか30分の出来事である。PHPより構文がキモいこの言語を、この教室の過半数を占めるプログラミング未経験者が扱えるとでも思っているのだろうか。さらにこのインターンはIT企業のインターンのくせにインターネット接続の一切を禁じられている。「思考力を養うため」という名目のもと、我々インターン生は人類数百万年の文明を放棄させられたのだった。プログラミング経験者の方ならおわかりだろうが、プログラミングの能力は「目的とするコードをググる」能力に等しいところがある。というか8年もこの言語使ってんなら絶対一回はググったろ。俺にもググらせろ。

一筋縄にはいかない風変わりなインターンである。風変わりと言わず、オカシイと誰かが断言してやればよい。だがこの一見意味不明な方針にも、意味不明なりに理由はあるはず。例えばプログラミングなぞはなからさせる気がなくて、プログラミングの限界というバイアスをあえて植え付けて、そのバイアスを取り除くことができるかどうかを試しているのではないか。俺は絶対に騙されないぞ。たとえ一般意識高い系学生がプログラミングに躍起になったとしても、そもそも正攻法自体を忌み嫌い限りなくアウトに近いアウトを愛するこの俺は、絶対にプログラミングなんかやってあげないんだからっ!!そんなことを思っていたら3時間のプログラミング講座が終了していた。その7割は「講座」ではなく「演習」で、今後プログラミングに関する指導予定はない。マジか。

 

絶望の朝を迎えた三日目。今日が終われば明日は休み。ボロ雑巾と化した俺のメンタルよ耐えてくれ。なんて思ったりしたが、たかが三日でここまで疲弊する己のメンタルが情けない。俺はそもそもこのインターンが「面白いらしい」と錯誤してここに入ってきたのだ。なにがしの詐術により見事動機の錯誤を起こしてしまったものだから、理想と現実のギャップに打ちのめされ、もはや夢か現かわからない。胡蝶の夢とはよくいったものだ。

三日目はインターン生が考案したシステムの説明を社員に対して行う。ここでほぼすべてのインターン生はその企画を完膚なきままに叩き潰されて精神疾患に罹るという。大学生という社会における赤子に対し、なんと非道な手段を取るのだろうかこの組織は。俺達だってその昔は「日本の未来を担う皆さんの為に無償で支給されてい」る教科書を手にしていたのだぞ。未来の芽をここで摘んではならないのではないだろうかと、俺はそう言いたい。

そんな言い訳を考えることしか能がない俺は当然のごとく企画ごと精神を潰滅された。社員は容赦なく俺の発想、思考、想像そのすべてを蹂躙し、俺という世間知らずの大馬鹿者を打ち伏せることに成功したのだった。元来、俺のような社会不適合者は『狂気』として社会から隔絶された精神病棟のような場所に隔離されていたのだ。『基本的人権の尊重』などと綺麗事を吐き、俺を一般社会に野放しにしていた行政が悪い。更に言えば、俺がADHDだと見抜けぬまま競争倍率10倍のインターン試験を通過させたこの企業が悪い。そう、俺は悪くない。なんてことを家に帰って5回は唱えた。三日目にして俺のメンタルは崩落寸前であった。

 

翌日は休日だったので、俺は自分の無能具合とこのインターンの意義についていまいちど考えなおそうとした。このインターンはこんなに辛い思いをしてまでやる価値があるのか。三日目にして意気消沈している俺のメンタルは弱すぎやしないか。知識や経験を不要とし、アイデアの一切を己の思考の中から生み出させようとするこの企業方針は正しいのか。このままではインターン中に与えられる課題を一切こなせないまま一ヶ月を過ごさねばならないのではないか。様々な思いが俺の中にはあった。そしてその中で折れが選び取った答えはやはり

 

『家でバレないようにググればなんとかなるんじゃね?』

 

である。根性なしと言ってくれるな。俺は目的達成のために手段を選ばない。たとえそれがイリーガルであっても……

そんなわけで色々とググり始めたら多くのことがわかるわかる。今まで俺はどれだけ劣悪な環境で業務をしてきていたのだろうかと、少しアホらしく思えてくる。もちろん画期的なアイデアを生み出すためにバイアスを排除することは重要だけど、それ以上に基礎知識がなくては業務想定すらできない。人類の叡智を蓄えた俺は、改めて企画を見直し、翌日に迫るインターン4日目に挑まんとしていた。

 

のだが、その4日目の早朝、体に異変が起きる。何だこれは。熱が39,6℃もあるじゃないか。死にそうだ早く病院へ。そこで医者に告げられる。「水痘か風疹の可能性がありますね」「再発するとは珍しいですね」「しばらく外出禁止でお願いしますね」かくして俺のインターンは三日目にして終了した。

これでよかったのか悪かったのか、正直なんとも言えないところがある。今の自分の力では今後のインターン業務に対応できるとは到底思えないし、そんな状態で苦行を続けても能力開発における費用対効果が悪すぎる。ここは半年ほど英気を養い、また夏の部で出直すとしよう。そう自分に言い聞かせて、俺はプリパラを観ようとテレビを点けたのだった。